労働

職場で生じる主な労働問題として、賃金未払い、不当解雇、職場でのいじめなどが存在します。

賃金が未払いの場合

1.請求の内容

賃金が支払われない場合、労働者は使用者に対して未払賃金及びこれに対する支払日の 翌日からの利息(使用者が商人の場合は年6%、商人ではない場合には年5%)を請求する ことができます。

また、退職後については、退職日の翌日から年14.6%の遅延損害金を請求すること ができます。

時間外・休日手当の未払いなどがある場合には、当然それらも請求できます。

解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年休手当が支払われなかった場合には、裁判所は、 労働者の請求により、未払額と同額の付加金の支払いを命ずることができます(労基法114条)。なお、賃金については2年、退職金については5年で時効消滅してしまいますので(労基法115条) 支払日から時効消滅するまでの間に請求する必要があります。

2.法的手段

労働基準監督署による指導・是正勧告

賃金の未払いが明らかな場合、労働基準監督署は、 比較的迅速に当該使用者に対して、調査を行いますが、労働基準監督署は刑罰を課すのみで、 労働者に民事上の請求権を発生させることはありませんので、使用者があくまで賃金を支払 わない場合には、別途法的手続きを取る必要があります。

民事調停

話し合いによる解決が可能な場合、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に対して、民事調停の申立てをすることも可能です。この場合、2名の民事調停委員が双方の言い分を聞いた上で、互譲の可能性を探ります。互譲が可能であれば、調停で解決することも可能ですが、そうでない場合には、調停に強制力はありませんので、不調という形で終了します。

労働審判

平成18年4月1日から施行された制度です。手続は、口頭主義を採用していることや裁判体が職業裁判官1名と労働審判員2名によって組織されることなど以外は、通常の訴訟と同じですが、原則3回で審理を終了させることになっており、迅速な解決が可能になっている点に大きな特徴があります。しかしながら、当事者が多数に及んでいる場合、争点が複雑で審理が長期化する可能性が高いなどの場合には、労働審判では審理してもらえない可能性があります。

また、労働審判は、労働者個人と使用者の争いである個別労働関係の紛争を対象としており、労働組合と使用者の争いは対象としておりません。

訴訟

地方裁判所或いは簡易裁判所に提訴する方法です。通常は、書面のやり取りを数回繰り返し争点が明確になった段階で証人尋問を行い、その後判決という流れです。訴訟係属中、和解の話し合いがもたれることも多く、その場合和解で終了することもあります。

不当解雇の場合

1.請求の内容

解雇理由がないにも関わらず解雇された場合には、労働者は、解雇の無効及び職場復帰するまでの賃金の支払いを主張することができます。賃金については、使用者が商人の場合 には支払日の翌日から年6%の利息を、商人ではない場合には支払日の翌日から 年5%の利息を請求できます。

解雇の無効を争う場合には、積極的に解雇理由が存在しないことを主張立証する必要があります。

2.法的手続

取るべき手段については、基本的に上記(1)賃金が未払いの場合と同様です。

労働契約法について

平成19年12月5日、労働契約法が制定され、翌平成20年3月1日から施行されております。

1.労働契約法制定の目的

労働契約法で定められている規定は、従来、判例法理として実務上運用されてきたものですが、これらを立法化することで、労使双方に対し、公正・透明なルールを提供することを目的としております。

2.労働契約法の規定

労働契約法は全19条の短い条項からなっております。

第1章総則では、労働契約法の目的、労働者・使用者の定義、労働契約の原則、労働契約の内容の理解の促進、使用者の安全配慮義務などが、第2章労働契約の成立及び変更では、労働契約の成立、労働契約の内容の変更、就業規則による労働契約の内容の変更、就業規則の変更に係る手続き、就業規則違反の労働契約、法令・労働協約と就業規則との関係などが、第3章労働契約の継続及び終了では、出向、懲戒、解雇などが、第4章期間の定めのある労働契約では期間の定めのある労働契約が規定されております。

Q&A(労 働)

1.解雇について

1.期間の定めのない雇用契約を締結している労働者について、どういう場合に解雇が違法となりますか。
解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合です(労働契約法16条)。
2.具体的に、会社が解雇できるのはどのような場合ですか。
  1. 労働者の傷病や職務遂行能力に問題がある場合
  2. 非違行為など行状に問題がある場合
  3. 会社の経営上の判断に基づく場合
  4. ユニオン・ショップ協定に基づく場合
3.労働者の傷病により解雇できる場合とはどのような場合ですか。
例えば交通事故により半身不随となり就労が不能となった場合などです。逆に、交通事故により負傷したものの、休職期間後、就労に耐える程度に回復した場合には、仮に解雇したとしても解雇が無効とされる可能性が高いです。
4.労働者の職務遂行能力により解雇できる場合とはどのような場合ですか。
一概には言えませんが、能力がどの程度不足しているのか、業務に与える支障はどの程度なのか、改善の見込みはあるのか、他の部署への移動の可否などを総合して判断することになります。
5.非違行為など行状により解雇できる場合とはどのような場合ですか。
犯罪などの私生活上の非行、無断欠勤等の職務懈怠、業務命令違反、職場の規律違反などにより、当該労働者を会社に在籍させておくことが適当ではない場合には、解雇できます。なお、非違行為などは懲戒事由にも該当するため、懲戒処分と重なることもあります。この場合、普通解雇とするか懲戒処分とするかは会社が判断します。
6.会社の経営上の判断に基づいて解雇することはできますか。
一定の条件を満たす場合には、解雇できます。このように会社の経営上の判断に基づく解雇のことを整理解雇と言います。
7.整理解雇が認められる要件は何ですか。
(1)人員削減の必要性があるのか、(2)解雇回避努力義務を尽くしたのか、(3)被解雇者を選定する基準が合理的か、(4)労働組合又は労働者に対して十分な説明・協議を尽くしたのか、という4要件です(東洋酸素事件)。
8.(1)人員削減の必要性とは何ですか。
業績悪化などの理由により人員削減の必要性がある場合で、通常、経営判断として人員削減の必要があると考えられれば、その判断は尊重されます。人員削減しなければ倒産してしまうという状況までいかなくても人員削減の必要性は認められます。
9.(2)解雇回避努力義務を尽くしたとはどういうことですか。
解雇する前に、(1)配転、出向等の人事異動、(2)労働時間の短縮、一時帰休、(3)役員報酬の削減、賞与の削減・不支給、(4)非正規社員の削減、(5)希望退職などを検討したかということです。これらを全く検討せずにいきなり解雇した場合には、解雇が無効と判断される可能性が高いです。
10.(3)被解雇者を選定する基準が合理的とはどういうことですか。
解雇にあたって、適切な基準を設けているかということです。例えば、勤続年数、出勤率などを基準とするといったことです。なお、基準が合理的でも適用が不合理であれば解雇無効とされることはあります。
11.(4)労働組合又は労働者に対して十分な説明・協議を尽くしたとはどういうことですか。
単に、会社の言い分のみを述べるのではなく、労働組合又は労働者の話にも耳を傾けることが必要です。十分な説明・協議を尽くしたか否かは説明・協議に費やした時間・回数なども含めて総合的に判断されます。なお、会社には、説明・協議を行う義務はありますが、労働組合又は労働者の言い分に応じる義務はありません。
12.解雇についての法規制は何ですか。
会社は、労働者を解雇するに当たって、30日前に予告するか30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条1項本文)。但し、懲戒解雇の場合には上記は不要です(同項但書)。
13.有期雇用契約の労働者について、どういう場合に解雇が違法となりますか。
期間の定めのある労働契約の場合には、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間満了までは解雇することができないとされております(労働契約法17条1項)。
14.有期雇用契約の契約期間中の解雇は、期限の定めのない雇用契約の解雇よりも厳しいでしょうか。
一般的には厳しいです。これは、有期雇用契約においては、契約期間が区切られている点で通常の正社員と比較して身分が不安定なため、その分、契約期間中は身分を保障するという趣旨です。なお、この場合の解雇においても、解雇予告の規制は適用されます。
15.有期雇用契約が反復更新された場合、実質的に期間の定めのない雇用契約と同じ扱いになるのでしょうか。
なります。実務上、反復更新された雇用契約は実質的に期間の定めのない契約と変わりなく、更新拒絶の意思表示は解雇と実質的に同じであり、従って解雇に関する法規制が類推適用されるとされております(東芝柳町工場事件)。
16.有期雇用契約が何回反復更新されると実質的に期間の定めのない雇用契約と同じ扱いになるのでしょうか。
法律上決まりはありません。実務上は、3回以上反復更新されたか否かが一つの目安とされております。
17.労働者が解雇の無効を裁判で争うにはどのような方法を取ればよいでしょうか。
通常訴訟において、解雇無効を理由として、(1)労働者の地位にあることの確認と(2)職場復帰するまでの未払賃金を求めます。地位保全の仮処分という方法もありますが、最近は保全の必要性を厳しくみることからあまり有用ではありません。
18.未払賃金に利息はつきますか。
つきます。使用者が商人の場合には支払日の翌日から年6%の利息を、商人ではない場合には支払日の翌日から年5%の利息を請求できます。
19.不当解雇について、労働基準監督署で解決してもらえるのでしょうか。
労働者は、労働基準監督署に対して、個別労働紛争について申告する権利がありますので、労働基準監督署へ、不当解雇について申告することができます。これによって、場合により、労働基準監督署から、会社に対して、指導・助言がなされることもあります。但し、労働基準監督署が解雇の適法性を判断することの難しさや、労働基準監督署が民事上の強制力を有さないことなどから、最終的な解決は裁判で図ることになります。

2.未払賃金・退職金について

1.会社が残業代を支払ってくれません。 会社に対して残業代を請求することはできますか。
所定労働時間を超えて働いた場合、残業代を請求できます。
2.どの程度の残業代を請求できますか。
ア 所定労働時間を超えて法定労働時間内の労働(法内超勤)
通常の労働時間の賃金
イ 法定労働時間を超える労働(時間外労働)
通常の労働時間の賃金の25パーセント以上の賃金
ウ 午後10時から午前5時までの労働(深夜労働)
通常の労働時間の賃金の25パーセント以上の賃金
エ 休日労働
通常の労働日の賃金の35パーセント以上の賃金
オ 時間外労働と深夜労働が重なる場合
通常の労働時間の賃金の50パーセント以上の賃金
カ 深夜労働と休日労働が重なる場合
通常の労働時間の賃金の60パーセント以上の賃金
3.通常の労働時間の賃金とは何ですか。
毎月の賃金額を月における所定労働時間数で割った金額です。
4.就業規則上1日の所定労働時間は7時間とされておりますが、例えば9時間勤務した場合、残業代はどのように支給されますか。
上記(2)アに記載しておりますが、法定労働時間は8時間ですので、法律上は、会社は、7時間〜8時間の部分については通常の労働時間の賃金を、8時間〜9時間の部分については割増賃金を支給すれば足ります。もっとも就業規則などで、一律割増賃金を支給するという扱いになっている場合には、全て割増賃金が支給されます。
5.会社は、1週間につき10時間の残業代しか支給しないと言っておりますがこのような主張は認められるのでしょうか。
認められません。残業代が発生するかしないかは法律で決まっているものであり、会社が決められるものではありません。
6.裁量労働とは何ですか
労使協定でみなし労働時間数を定めた場合には、当該労働者については、実際の労働時間に関係なく労使協定で定める時間数労働したものとみなすという制度です。
7.裁量労働の場合は、実際の労働時間に応じて残業代を支払う必要はないのですか。
支払う必要はありません。もっとも、みなし労働時間数自体が法定労働時間を超える場合には、その部分について割増賃金の支払は必要です。
8.残業代に利息はつきますか。
つきます。使用者が商人の場合には支払日の翌日から年6%の利息を、商人ではない場合には支払日の翌日から年5%の利息を請求できます。
9.残業代の消滅時効は何年でしょうか。
支給日から2年です。
10.付加金とは何ですか。
会社が、解雇予告手当、休業手当、時間外・休日・深夜労働の割増賃金、年次有給休暇の賃金を支払わなかった場合、裁判所の裁量により、未払金のほかにこれと同一の付加金を命じることができるとされております。実際には、会社の悪質性や労働者の救済の必要性などを総合して裁判所が判断します。
11.退職金はどういう場合に支給されますか。
就業規則、雇用契約、労使慣行などで支払うことが決められている場合です。
12.退職金の消滅時効は何年でしょうか。
支給日から5年です。

3.派遣について

1.労働者派遣とはなんですか。
自己の雇用する労働者をその雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、他人のために労働に従事させることをいいます(労働者派遣法第2条第1号)。
2.労働者派遣の法律関係はどのようになりますか。
派遣元−労働者 雇用契約関係
派遣元−派遣先 労働者派遣契約関係
派遣先−労働者 指揮命令関係
3.労働者派遣が認められるようになった理由は何ですか。
労働力需給の適正な調整を図るためです(労働者派遣法第1条)。使用者側には、専門的知識、技術等を有する労働者を必要に応じて確保したり、一時的な業務量の増大に対応したいというニーズがあり、他方、労働者側には、専門的知識、技術等を生かして働きたい、或いは特定の企業に縛られずに働きたいといういうニーズがあり、双方のニーズにこたえるために労働者派遣が広く認められるようになりました。
4.労働者派遣契約は誰と誰の間で結ばれますか。
派遣元企業と派遣先企業の間で結ばれます。
5.労働者派遣契約に定めなければならない事項は何ですか。
労働者派遣契約に定めなければならない事項は法律で定められております(労働者派遣法第26条)。
ア 業務の内容
イ 事業所の名称、所在地及び就業場所
ウ 指揮命令者に関する事項
エ 派遣期間及び就業日
オ 就業開始及び終了時刻並びに休憩時間
カ 安全及び衛生に関する事項
キ 苦情処理に関する事項
ケ 労働者派遣契約の解除にあたって講ずる雇用の安定のための必要な措置に関する事項
コ 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
サ 休日・時間外労働に関する事項
シ 便宜供与に関する事項
6.派遣先は派遣労働者の性別・年齢を特定してよいのですか。
特定してはいけません。派遣先は労働者派遣契約の締結に際し、契約書に派遣労働者の性別、年齢を記載してはいけません。
7.派遣先は派遣労働者の氏名を特定してよいのですか。
特定してはいけません。派遣労働者のうち誰を派遣するかを決定するのは派遣元です。但し、紹介予定派遣の場合はこの限りではありません。
まずはお電話ください。

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